水風呂の効果、科学は本当は何と言っているのか
水風呂の効果で、いちばん証拠がしっかりしているのは「気分」と「頭のさえ」です。冷たい水に入ると、ノルアドレナリン(体を目覚めさせる物質)が大きく確実に上がり、ドーパミン(やる気にかかわる物質)がゆっくり長く上がります。そして出たあと数時間、多くの人が「落ち着いて、頭がすっきりした」と感じます。炎症や筋肉痛への効果は本物ですが、小さくて短いものです。しかも筋トレの直後に冷やすと、筋肉の成長をじゃまするようです。それ以外 — 脂肪燃焼、免疫、テストステロン、代謝 — は、効果が小さいか、結果がバラバラか、そもそも水風呂の研究ではないものからの推測です。
これが短いバージョンです。ここから先は長いバージョン。理由と、温度と、証拠が薄くなる場所の話です。
そもそも、なぜこれを書くのか
私たちはクタのルーフトップで4つの一人用アイスバス(17℃が2つ、7℃が2つ)を、ウブドで2つの水風呂(17℃と5℃)を毎日動かしています。毎日たくさんの人が入ります。その多くが、どこかで読んだ話を持ってやって来ます。「冷たい水は脂肪を燃やす」「テストステロンが3倍になる」「炎症が治る」。
できれば、正確な絵を持って来てほしいのです。正確な絵も、じゅうぶん良いものです。ただ、限界があるだけです。
先にひとつだけ。ここに書く科学は、健康な大人が、自分の意思で、しらふで冷たい水に入る場合の話です。お酒のあとの水風呂は絶対にだめです。一杯でも、「ビールだけ」でもだめです。アルコールは、体が冷たさを感じて反応する力を弱めます。そして「そろそろ出よう」という判断力も奪います。答えはいつもノーです。
ノルアドレナリン:いちばん強い結果
これは、何十年も前から、違う研究室で、違うやり方で、何度も何度も出ている結果です。
冷たい水に入ると、血液の中のノルアドレナリンが急に上がります。10℃くらいの水に短く入っただけで、ふだんの2〜5倍になるのが普通です。最初の1〜2分ですぐ上がり、水から出た瞬間に下がるわけではありません。そのあと長い時間、高いままです。水風呂のあとの1時間が、水風呂そのものと違う感じがするのは、これが理由です。
ノルアドレナリンは、集中と注意の物質です。ほどよく上がると、不安が減って気分が良くなることとも関係しています。よく知られているのは、プラハのŠrámekたちが行った冷水浴とカテコールアミンの研究です。そのあとフィンランドやチェコで続いた「寒さへの慣れ」の研究もあります。自分で調べたい人は、この分野の名前で探してみてください。human physiological responses to immersion in water of different temperatures、それから cold-water immersion and catecholamine response です。
この結果がとくに強いのは、信じているかどうかに関係しないからです。冷たい水が好きでも嫌いでも、ノルアドレナリンは上がります。アンケートではなく、血液で測った数字だからです。
ドーパミン:本物、でもゆっくり。そして一点だけ話が盛られがち
冷たい水はドーパミンも上げます。いちばんよく引用される研究(14℃の水に1時間)では、およそ250%上がりました。上がり方はノルアドレナリンよりゆっくりで、水から出たあとも何時間か高いままです。
正直な注意が2つあります。
ひとつめ。この250%という数字は「1時間」入った結果です。3分ではありません。短く入れば、効果はもっと小さいはずです。「何分でどれくらい上がるのか」をていねいに調べた研究は、まだありません。
ふたつめ。ドーパミンは「快感」の物質ではありません。どちらかというと「やる気」に近いものです。水風呂のあと、横になりたくなるのではなく、何かしたくなるのは、たぶんこれです。長続きする感じがするのもそのせいです。カフェインなどと違って、ゆっくり上がってゆっくり下がるので、あとで落ち込みません。
サウナのあとに体の中で起きていることを読んだ人なら、これは同じ話を冷たい側から見たものだと分かるはずです。
炎症と筋肉痛:小さくて、一時的で、ひとつ代償がある
ネットの話と研究のずれが、いちばん大きいのがここです。
冷たい水は、遅れてくる筋肉痛(筋トレの翌日に来るあれ)をたしかに軽くします。スポーツ科学のメタ分析でも、くり返し確認されています。ただし効果は「そこそこ」で、しかも主に感じ方の話で、だいたい24〜48時間のあいだだけです。明日が少し楽になります。長い目で見て強くなったり速くなったりする、という証拠はありません。
そして、はっきりした代償があります。cold water immersion and resistance training adaptations という分野、とくにオーストラリア・クイーンズランドの研究では、筋トレの直後に冷たい水に入ると、その期間の筋肥大と筋力の伸びが小さくなることが分かっています。理由はシンプルです。筋トレのあとの炎症は、抑えるべきダメージではなく、「大きくなれ」という体へのメッセージだからです。冷たい水は、そのメッセージを静めてしまいます。
ここから出てくるルールは簡単です。
- 有酸素運動のあと、あるいは同じ日に試合が続くとき:冷やすと役に立ちます。
- 筋トレのあとで、筋肉を大きくしたいとき:待ってください。4〜6時間あけるか、筋トレをしない日に水風呂を回してください。
- 休みの日に、気分と頭のさえのために入るとき:何の問題もありません。うちのお客さんの多くは、実はこれです。
「抗炎症」という言葉も直しておきます。冷たい水は、体の中の慢性的な炎症を消すわけではありません。いま冷やした場所の炎症反応を、一時的に弱めるだけです。これは別の話で、証拠があるのは後者だけです。
話が盛られているもの
あとで知るより、先に言っておきたいことです。
脂肪燃焼。 寒さは褐色脂肪という組織を働かせ、そこは熱を作るためにエネルギーを使います。これは本当で、面白い話です。ただし量が小さいのです。よく引用される数字でも、1回あたり数十kcal。数百ではありません。水風呂で意味のある体重減少が起きた、という比較試験はありません。研究分野自体は本物です(brown adipose tissue and non-shivering thermogenesis)。そこから引き出された宣伝文句のほうが本物ではありません。
テストステロン。 よく言われる話をたどると、熱の研究だったり、睾丸の温度の研究だったり、人数がとても少なくて結果もバラバラな研究だったりします。3分の水風呂でテストステロンが長く上がる、という良い証拠はありません。
免疫。 いちばん有名なのは2016年のオランダの研究で、シャワーの最後を冷水で終えた人たちは、病欠の日数が少なかったというものです。知っておく価値はあります。ただし、水風呂ではなく冷たいシャワーで、結果は自己申告で、参加者は自分がどちらのグループか知っていました。ヒントであって、結論ではありません。
代謝や長寿の話。 たいていは動物実験か、サウナの疫学研究からの借り物です。サウナのほうははるかに良いデータがある、別の研究分野です。サウナの証拠を借りて水風呂を弁護するのはやめましょう。
うつの治療。 症例報告や小さな研究はあって、正直かなり期待できます。でもランダム化比較試験ではありません。冷たい水は治療ではありません。多くの人の気分を良くするもの、です。この2つは同じ文ではありません。
温度と時間:実際にどうするか
大事なのは「勇気」ではなく「冷たさの総量」です。この分野でよく言われる目安は、「つらいと感じるくらい冷たい水に、1週間で合計11分ほど、2〜4回に分けて入る」というものです。1週間ぜんぶでこれです。みんなが思うよりずっと少ないのです。
うちの水に当てはめると、こうなります。
17℃ — 両店の入り口の温度です。反応を起こすには十分冷たく、でも3〜5分入って普通に呼吸できるくらいの優しさです。初めての人はここから。常連さんでもここに留まる人はたくさんいます。飛ばしたからといって、賞がもらえるわけではありません。
7℃ — クタのルーフトップにある、冷たいほうの2つです。1〜3分。最初の15秒は息が止まりそうになります。冷たい水の技術は、そこで戦わずにやり過ごすこと、それだけです。長く、ゆっくり息を吐く。肩の力を抜く。30秒たっても呼吸が落ち着かないなら出てください。それは失敗ではなく、情報です。
5℃ — ウブドの水風呂です。60〜90秒でじゅうぶんです。それ以上は、効果が増えるのではなく、リスクが増えます。まだ完全に自分をコントロールできているうちに出てください。
数字より大事なことが、あと3つあります。
できれば首まで浸かってください。手と足は不快さの多くを担当していて、そこを出しておくと、思っている以上に「量」が変わります。
出たあとすぐに熱いシャワーを浴びないでください。座って、呼吸して、体が自分で温まるのを待つ。それも効果の一部です。クタのルーフトップなら、空の下のビーンバッグの場所です。ウブドなら焚き火のそば、あるいはヨガシャラです。
熱と冷たさを組み合わせるなら、順番は熱 → 冷 → 休憩です。休憩は幕間ではありません。副交感神経に切り替わるのはそこで、しかも多くの人が短く切り上げてしまう部分です。
やらないほうがいい人
冷たい水に入ると、心拍数と血圧が急に上がります。心臓に持病がある人、血圧が高いままの人、レイノー症の人、妊娠中の人は、私たちではなく医師に相談してください。冷たい水で気を失ったことがある人は、ひとりで入らないでください。
そしてもう一度:お酒のあとは絶対にだめです。
水についての正直な話
うちの水風呂は塩素で管理していて、毎日手入れしています。これをはっきり言うのは、もっと優しそうな方法で水をきれいにしていると匂わせる場所があるからです。うちは違います。暑い国で、みんなで使う冷たい水を安全に保つのは塩素です。そして塩素をちょうどいい濃度に保つのが、毎日の管理です。
盛った部分を引いたあとに残るもの
脂肪燃焼も、テストステロンも、免疫の話も引いてしまうと、こう残ります。安くて、薬を使わなくて、3分で終わって、そのあと何時間も確実に気分と頭のさえを良くしてくれて、翌日の筋肉痛を少しやわらげて、そして今日のほかの何とも違う「頑張り」を求めてくるもの。
じゅうぶん良い取引です。それ以上である必要はありません。
というより、何回か通った人はたいてい、しくみのことを気にしなくなります。そのあとの午後の過ごし方が変わるから来るのです。
試してみたい人へ
クタはJl. Sunset Road No.77B。ングラ・ライ空港から車で10分。毎日9:00〜22:00。料金は誰でも一律250,000ルピア。ルーフトップに80〜95℃のドームサウナと、4つのアイスバス(17℃が2つ、7℃が2つ)があります。
ウブドはMas VillageのJl. Raya Mas No.51。毎日8:00〜21:00。料金はこちらも一律250,000ルピア。ドームは90℃、水風呂は17℃と5℃。棚に並んだハーブから作るロウリュ用の一杯を使ったハーブの儀式もあります。
7歳からのお子さんは、どちらも50,000ルピアです。詳しくは料金とよくある質問をご覧ください。
予約は必要ありません。先にメッセージをいただけると、こちらもご案内しやすいです。クタ +62 813-3999-351、ウブド +62 813-3921-110。
参考にした研究分野
自分で調べられるように名前を挙げておきます。引用をでっち上げてはいません。
- Šrámek et al. (2000). Human physiological responses to immersion into water of different temperatures. European Journal of Applied Physiology.
- Roberts, Peake et al. Post-exercise cold water immersion and long-term adaptations to resistance training. The Journal of Physiology(クイーンズランドのグループ)。
- 冷水浴と遅発性筋肉痛についてのメタ分析。Cochrane およびスポーツ医学のレビュー。
- Buijze et al. (2016). The effect of cold showering on health and work. PLOS ONE.
- 成人の褐色脂肪と非ふるえ熱産生についての研究。